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東京地方裁判所 昭和45年(行ク)92号 決定

申立人 金基元

被申立人 東京都足立区足立福祉事務所長 八木幸男

右指定代理人 木下健治

主文

本件申立てを却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

一、申立人は「被申立人が申立人に対し昭和四五年一二月一四日付をもってした保護開始申請却下処分の効力を本案判決の確定するまで停止する。被申立人は申立人に対し直ちに保護費を支給せよ。」との裁判を求め、その理由として、

「申立人は生活に困窮しているので、昭和四五年一二月一日被告に対し生活保護法による保護の開始を申請したところ、被申立人は同月一四日付をもって右申請を却下する処分をしたが、右処分は同法第一条、第二条、第三条、第四条第三項に違反した違法な処分である。

そこで申立人は被申立人を被告として右処分の取消を求める訴えを提起したが、申立人の生活は現在逼迫した状態にあるので、直ちに右処分の効力が停止されなければ、申立人は回復しがたい損害を蒙ることになる。

よって、行政事件訴訟法第二五条第二項により右処分の効力の停止および被申立人に対し保護費の支給を求める。」

と述べた。

二、被申立人の意見は別紙のとおりである。

三、行政事件訴訟法第二五条第二項の規定は、行政処分の効力等を本案判決の確定までの間一時的に停止することによって当事者間の法的状態につき暫定的な安定を図るとともに不服申立人の権利の保全および損害の発生、拡大の防止を目的としたものであるから、行政処分の効力等の停止の申立てをしうるのは、当該行政処分の効力等を停止することが申立人の権利の保全および損害の発生、拡大の防止に直接役立つ場合に限られるところ、本件申立ては生活保護法による保護開始申請に対する却下処分の効力の停止を求めるものであって、仮に申立人の申立が認容されたとしても、それは本件却下処分の効力が一時的に停止されるにとどまり、これによって申立人に対し暫定的保護の開始がなされたと同じ効力を生ずることにはならず、他に申立人の損害の発生、拡大を避けるためになんら役立つものでもないから、本件申立ては申立ての利益を欠くものといわなければならない。

なお、申立人は本件申立てにおいて被申立人に対し保護費の支給を求めているが、行政事件訴訟法第二五条第二項によりなしうるのは行政処分の効力等の停止のみであり、それ以上に行政庁に対し一定の作為を命ずることを求めるのは許されないから、申立人の右の申立ての部分も不適法といわなければならない。

以上のとおり、本件申立ては不適法であるから却下することとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用したうえ主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 小木曽競 海保寛)

〈以下省略〉

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